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新型コロナウイルスをめぐる労働問題

2020年04月20日 | コラム, 労働問題

令和2年4月16日、新型コロナウイルス対策の特別措置法に基づく「緊急事態宣言」が全国に拡大されました。

新型コロナウイルスの蔓延が生活に与える影響が甚大であることは言うまでもなく、現在そして将来に亘って様々な法律関係に変化をもたらすことが想定されますが、ここでは、当面、労働関係において問題になりそうなトピックについて簡単に説明させていただきます。

職場が休業した場合の給与の取り扱い

緊急事態宣言が全国に拡大されたことを受け、勤務先が休業となったという方も多いと思います。

その場合に、勤務先の上司から「休業中の給与は支給できない」と通告された場合、その扱いに問題はないでしょうか。

労働基準法上、使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合には、賃金の6割を休業手当として支払わなければならないことになっています(同法26条)。

ここで問題となるのは、新型コロナウイルス感染拡大防止のための休業が「使用者の責めに帰すべき事由による休業」と言えるかどうか、簡単に言えば、休業が使用者側の責任と言えるかどうかです。

もちろん、労働者にとっては、自分には労働の意欲も能力もあるのに、使用者が休業を決定し、出社しないように求めているのですから、休業は使用者の責任と言いたいでしょう。

他方で、使用者にしてみると、平時であれば事業を続けることができたのに緊急事態宣言によってそれが叶わぬことになったのだから、休業は使用者の責任ではない(不可抗力である)と言いたくなるところです。

緊急事態宣言はすべての業種・職種において直ちに休業に繋がるものではありません。したがって、判断のポイントは、使用者にとって休業が、最大限の注意を尽くしてもなお避けられない状況にあったかどうかという点にあります。

例えば、直ちに休業しなくても、在宅勤務に切り替えられる業種・職種などであれば、使用者が最大限の注意を尽くしていたとは言い切れず、「使用者の責めに帰すべき事由」が認められやすくなる(=休業手当の支払が必要)でしょう。

他方で、緊急事態宣言に基づく休業要請がなされた業種(ライブハウス、バー、カラオケボックス等)に関しては、休業はやむを得ず、代替の職務も存在しないのであれば、「使用者の責めに帰すべき事由」はない(=休業手当の支払は不要)と言わざるを得ないでしょう。

休業要請はされておらず自主的に休業したが代替業務もないという業種(飲食店等)の場合はさらに微妙で、個々の事案ごとに判断していくしかないのですが、少なくとも、緊急事態宣言を受けての休業だからと言って休業手当の支給が受けられなくなることに直結するわけではないということはご理解いただければと思います。

なお、上記の労働基準法の定め(賃金の6割を休業手当として支払う)はあくまでも休業手当の最低ラインを定めるものですので、事業主がそれ以上の支給を就業規則等で定めることももちろん可能です。

会社によっては、休業手当が上乗せされているところもあると思いますので、一度会社の就業規則や賃金規定をご確認ください。

感染または感染の疑いにより自宅待機となった場合の給与の扱い

次は、労働者の方が自宅待機等により働けなくなった場合の給与の取り扱いです。

労働者が感染した場合

新型コロナウイルス感染者については、感染症法に基づき、都道府県知事が該当する労働者に対して就業制限や入院の勧告等を行うことができることになっています。

これに伴い、使用者も、都道府県知事により就業制限がかけられた労働者について、就業させてはいけないことになりますので、「使用者の責めに帰すべき」休業とは言えず、原則として休業手当の支払は受けられないことになります。

労働者に感染の疑いがある場合

発熱などの症状を受け、労働者から自主的に休んだ場合は、就業規則や労働協約の定めに従うことになります。

就業規則や労働協約に定めがない場合には、ノーワークノーペイの原則が妥当することとなりますので、原則として休業手当の支払を受けることはできません。労働者としては、年次有給休暇を利用するほかないでしょう。

他方、使用者の判断で休業を命じられた場合には、基本的には「使用者の責に帰すべき事由による休業」に当てはまりますので、休業手当の支給が受けられると考えられます。

ただ、37.5度以上の発熱が4日以上続く場合や、強い倦怠感や呼吸困難がある場合など、感染が合理的に疑われるような状況にあるときは、もはや職務の継続が可能な状況にはありませんので、使用者の判断による休業とは言えず、休業手当の支給が受けられない可能性もあります。

業績悪化により解雇された場合

業績悪化等、使用者側の経営事情などにより生じた従業員数削減の必要性に基づく解雇は、「整理解雇」と呼ばれます。

整理解雇が有効か無効かは、裁判例上、次の4つの要素を総合考慮して判断されます。

  1. 人員削減の必要性
  2. 解雇回避努力
  3. 選基準及び選定の合理性
  4. 説明・協議義務

新型コロナウイルス感染拡大により自粛や休業が続いている現在の状況下では、1の人員削減の必要性は広く認められることが想定されますので、ポイントは2~4の要素が認められるか、認められるとしてどの程度のものかという点です。

人員削減の必要性が高かったとしても、一時休業する(新型コロナウイルスによる休業は雇用調整助成金の対象となります)・希望退職者を募る等の解雇回避努力を何ら講じていない場合、解雇対象者の人選が恣意的である場合などは、解雇が無効となる可能性があります。

まとめ

以上、当面の間直面しうる労働問題について簡単に解説しました。

もっとも、新型コロナウイルス感染拡大の状況やそれに基づく制度設計は日々刻々と変化しておりますので、内容は執筆時点の情報であることにご留意ください。

また、法律上の原理原則は上述したとおりであるものの、現在の社会を取り巻く状況は一種の異常事態であり、このことは誰しも否定できないところだと思います。

通常の労使紛争とは異なり、使用者も労働者もともに苦境に立たされているという側面があります。法律論をかざすだけでは解決に繋がらないことも大いにあり得ますので、法の枠組みを超えた協議や解決法が求められる場面も多くなるのではないかと考えています。

各項目でも触れましたとおり、事案ごとの判断も必要不可欠ですので、お困りの際は是非一度当事務所までご相談ください。