1.「自然災害債務整理ガイドライン」の適用
2020年12月1日より、「自然災害による被災者の債務整理に関するガイドライン」(自然災害債務整理ガイドライン)が、新型コロナウイルス禍により債務の返済に困窮している方に対しても適用されるようになりました。
この制度は、新型コロナウイルスの影響により収入や売上げ等が減少したことによって、住宅ローンや事業性ローンその他の債務を弁済できなくなり、またはできなくなることが確実と見込まれる債務者が、弁護士等の「登録支援専門家」の支援のもとで金融機関等の債権者と協議を行い、全ての債権者の同意を得られたときは、既存の債務の減額や免除を受けられるというものです。
自然災害債務整理ガイドラインを利用することによって、一般的な債務整理の方法(自己破産・個人再生・任意整理)よりも有利な解決を図れる場合がありますので、今回はこの制度について紹介したいと思います。
2.「自然災害債務整理ガイドライン」の特徴
(1) 本制度の概要
自己破産や任意整理など、通常の債務整理と比較したメリットは大きく次の4点です。
①信用情報機関に登録されない
一般的な債務整理の場合、それが自己破産であろうと任意整理であろうと、その事実が信用情報機関に登録されます(いわゆるブラックリスト)。
これにより、しばらくの間は新たな借入を行ったりローンを組んだりすることが不可能になりますので、生活の再建は自身の収入の範囲で行わなければなりません。
他方、本制度においては、信用情報機関への登録はなされません。
これにより、新規の借入への障壁は少なく、生活の再建がより柔軟に行えるといえます。
②手元に残せる財産が多い
自己破産の場合、生活に必要な最低限の資産を除き、所有する財産は原則として手放さなければなりません。その財産をお金に換えて債権者に対する配当に充てるためです。
他方、本制度では、「生活の再建に必要な現預金等は留保する」とされていますので、個別の事情を考慮した上でにはなりますが、自己破産の場合と比べて、より多くの財産を手元に残す余地が認められています。
③保証履行を求められない
本制度では、原則として、保証人への保証履行は求められないこととされていますので、保証人の方に迷惑を掛けずに債務整理を行うことが可能です。
④無料で専門家の支援を得られる
本制度では、債務者の方は、弁護士・不動産鑑定士・税理士・公認会計士の「登録支援専門家」の支援を無料で受けることができます。
登録支援専門家への報酬等は、本制度の運営機関から支払われることになっています。
(2) 手続の流れ
①手続着手の申出
まず、債務者は、最も多額のローンがある金融機関等に対し、本制度の手続着手の申出を行い、その同意を得ます。
②登録支援専門家による手続支援の依頼
同意を得られた後、債務者は、地元弁護士会を通じて、登録支援専門家による手続支援を依頼します。
選任された支援専門家は、各債務者に債務整理開始の申出を行います。
③金融機関との協議・調停条項案の作成
支援専門家は、金融機関等と事前協議を行いながら、調停条項案の作成を行います。
④特定調停による合意
支援専門家は、調停条項案への同意が得られた後、裁判所に特定調停の申立を行います。
最終的な合意は、特定調停における「調停」という形で行われます。
債務者は、その後、成立した調停に沿って弁済を開始することになります。
3.本制度の対象
(1) 対象となる債務
本制度は、すべての債務が対象とされているわけではなく、大きく次の二つの債務が対象となっています。
- 2020年2月1日以前に負担していた債務
- 2020年2月2日以降、同年10月30日までに新型コロナウイルスの影響による収入や売上等の減少に対応することを主な目的として以下のような貸付等を受けたことに起因する債務
- 政府系金融機関の新型コロナウイルス感染症特別貸付
- 民間金融機関における実質無利子・無担保融資
- 民間金融機関における個人向け貸付
注意が必要なのは、2020年10月31日以降に貸付等を受けたことに起因する債務は対象外となっている点です。
もし、現状、新たな借入や借換えをすることを検討している場合には、その前に、本制度による債務整理を行わなければなりません。
(2) 対象となり得る債務者
本制度の対象となり得るのは、新型コロナウイルスの影響により収入や売上等が減少したこと(具体的には、2020年2月1日以前と比べて、収入や売上が減少していること)によって、住宅ローン、住宅のリフォームローンや事業性ローンその他の対象債務を弁済することができない、または、近い将来において弁済することができないことが確実と見込まれる債務者です。
2020年2月1日以前に、期限の利益喪失事由に該当する行為がある場合(契約書に定められた回数以上返済を遅滞している場合など)には、その債権者の同意がない限り、本制度は利用できないので、注意が必要です。
(3) 対象債権者
本制度の対象となる債権者は、金融機関等(銀行、信用金庫、信用組合、労働金庫、農業協同組合、漁業協同組合、政府系金融機関、貸金業者、リース会社、クレジット会社、債権回収会社、信用保証協会、保証会社等)に限られ、仕入先や知人・友人等の一般債権者は含まれません。
ただし、例外的に、本制度による債務整理を行う上で必要なときは、その他の債権者も含むことができるとされています。
4.まとめ
以上、簡単にではありますが、新型コロナウイルス禍において適用される自然災害債務整理ガイドラインについて紹介させていただきました。
本制度の対象となれば、一般的な債務整理より有利に借金問題を解決することも可能ですが、対象はある程度限定されていますし、対象となる場合でも常に本制度が解決を有利に導くものでもありません。
考え方としては、従来の自己破産、任意整理、個人再生のほかに、もう一つ別の債務整理の方法が選択肢として加わったと考えて頂くのがベストではないかと思います。
どの制度によって借金問題を解決すべきかは、個別のご事情によるところが大きいです。
当事務所では、解決実績豊富な弁護士が、ご相談者様のご事情を丁寧に聴き取った上で、借金問題解決への道筋をご提案させていただきます。
初回相談は無料とさせていただいておりますので、お困りの際はぜひ一度お気軽にお問い合わせください。