公正証書遺言のメリット
公正証書遺言とは、民法の定める方式に従って公証人が作成する遺言のことを言います。
公正証書遺言には次のようなメリットがあり、自筆証書遺言に比べ、より安全で確実な遺言の方式ということができます。
- 公証人が作成するため、方式の不備により無効となったり、解釈に疑義が生じて後に紛争となったりするおそれが少ない。
- 遺言書原本が公証役場で保管されるため、紛失・隠匿・変造などの危険がない。
- 全国すべての公証役場で遺言の存否を検索することができるため、遺言の存在が知られないまま相続手続が終わってしまう危険性を減らすことができる。
- 家庭裁判所での検認手続が不要である。
公正証書遺言の作成手順
1.公証役場の選択
公正証書遺言は、遺言者が公証役場(全国に約300箇所あります)まで出向いて作成するのが原則です。例外的に、遺言者が入院中である、病弱で外出することが困難であるなどの場合には、公証人が遺言者の自宅などに赴いて作成することも可能です(ただし、この場合は作成費用が加算されます)。
公正証書遺言は、全国どこの公証役場においても作成することが可能で、遺言者の都合に合わせて選択することが可能です。
もっとも、公証人は、その所属する法務局・地方法務局の管轄区域において職務を執行するものとされていますので、管轄区域外に出張することができません。したがって、遺言者の自宅などに公証人が赴く事例においては、例えば千葉県内の自宅で療養中の遺言者のもとに、東京法務局所属の公証人が訪れることはできず、必ず千葉法務局所属の公証人に作成を委託しなければならないことになります。
2.遺言条項案の作成などの事前準備
遺言は、相続・遺贈・身分行為など重要な法律行為に関わるものであることから、その内容も複雑にならざるを得ませんし、遺言者の意思が過不足なく文言に反映される必要がありますので、事前の準備が必要かつ重要となります。
(1) 遺言条項案の作成
遺言の概要が決まりましたら、まずは公証人と協議し、公正証書作成日までに詳細な遺言条項案を作成しておくことになります。
弁護士に相談・依頼される場合は、まずは弁護士が遺言者のご希望をまとめた遺言条項案を作成して公証人に送付し、それをもとに公証人と協議を重ねて必要な字句の加筆修正を行い、公正証書作成日までに最終的な遺言条項案を作成する形になります。
(2) 必要書類の準備
公正証書遺言作成には、概ね次のような書類が必要となります。事案に応じて若干異なりますが、どのような書類が必要かは遺言条項案の協議段階で公証人から指示がありますので、それに従ってください。
- 遺言者の印鑑証明書(3か月以内に発行のもの)
- 財産を相続させる場合、推定相続人との続柄が分かる戸籍謄本
- 財産を遺贈する場合、受遺者の住民票
- 証人予定者の氏名、住所、生年月日、職業の情報
- 遺言執行者を指定する場合、遺言執行者の氏名、住所、生年月日、職業の情報
(3) 証人の準備
公正証書遺言の作成には、証人2名以上の立合いが必要とされていますので、予め証人を準備しなければなりません。
なお、次に該当する方は証人となることができませんので注意が必要です。
- 未成年者
- 推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
- 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人
遺言者にて証人予定者を準備できない場合には、公証役場に予め依頼して証人を用意してもらうことも可能です。ただし、その場合には、証人に対して別途費用を支払うことが必要になります。
3.作成当日
(1) 証人2名以上の立会い
すでに説明しましたとおり、公正証書遺言作成の際は証人2名以上が立ち会わなければなりません。
遺言者が証人を同行する場合、事前に証人予定者の情報を公証人に伝えておくことが通例で、作成当日はその同一性確認のため、運転免許証などの身分証の提出が求められます。また、公正証書への署名捺印が必要となりますので、証人は印鑑も持参する必要があります(認め印で足ります)。
なお、遺言者が高齢である場合などは、推定相続人や受遺者が公証役場に同行することも多いのですが、このような証人適格のない方に関しては、後の紛争を避けるため、公証人がその同席を断ることが一般的です(別室で待機していただくことになります)。そのため、遺言者の介助が必要な場合など、証人以外の方の同席を希望する場合には、予め公証役場と相談しておく必要があります。
(2) 口授
遺言者は、公証人に対して遺言の趣旨を口授しなければなりません。「口授」とは、口頭で述べることです。
口授は遺言の内容を一語一句漏らさずになさなければならないわけではなく、遺言者の真意が確保できる範囲で、柔軟に運用されています。
(3) 筆記と読み聞かせ
公証人は、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、または閲覧させなければなりません。
実務上は、公証人が予め遺言事項を記載した書類を準備しておき、当日遺言者からその内容について口授を受けるという方法が採られています。
この点において、(2)の口授と(3)の筆記の順序が入れ替わっていることになりますが、判例上、全体として「口授、筆記、読み聞かせ」がなされていれば順序の変更があっても問題ないとされています。
(4) 遺言者及び証人の署名・押印
遺言者と証人は、筆記の正確なことを承認した後、各自遺言書に署名・押印しなければなりません。
遺言者による押印は、民法上実印であることまでは要求されていませんが、遺言者の本人確認のために印鑑証明書の提出が求められていることとの兼ね合いで、実務上は実印による押印が必要とされています。
(5) 公証人の署名・押印
公証人は、遺言が民法所定の方式に従って作成されたものであることを付記して、これに署名・押印することになります。
(6) 公正証書正本及び謄本の交付
以上のようにして作成された公正証書遺言の原本は、最低20年間、作成した公証役場において保管されます。
遺言者に対しては、即日、公正証書遺言の正本と謄本が各1通交付されます。「正本」とは原本と同じ効力を持つ写しのことをいい、そのような効力を持たない写しのことを「謄本」といいます。
公正証書遺言の作成費用
公正証書遺言の作成には、所定の手数料が必要となります。
手数料は、遺言により相続させ又は遺贈する財産の価額を基準に算定することになりますが、具体的な算定方式は日本公証人連合会のホームページに記載がありますので、そちらをご参照ください。
まとめ
以上、公正証書遺言を作成するメリットやその作成手順について説明させていただきました。
遺言書に関しては、遺言条項を自署した上で署名・押印する自筆証書遺言よりも、公正証書遺言の作成をお勧めしています。費用は若干かかりますが、方式の不備による無効となるおそれが格段に少ないというのがその理由です。
公正証書遺言の作成にあたっては、ご自身で一から条項案を作成し、公証人と協議をするというのは困難を伴いますので、是非一度専門の弁護士までご相談ください。
弁護士にご相談いただければ、ご意向を余すことなく反映した遺言条項案を作成させていただくことはもちろんのこと、遺言書作成当日に弁護士が証人となることもできますし(証人は2名以上必要なので、ご希望があればさらにもう一人用意することも可能です)、また、弁護士を遺言執行者に指定していただくことも可能です。
遺言執行者とは、遺言者が亡くなられた後、遺言の内容を実現するために必要な一切の行為を行う権限を持つ者のことで、作成した遺言の内容を確実に実現させるためにもこれを指定する意味は大きいです。
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